ゼンショーのDXは、ゼンショーだけにとどまらない。 ゼンショーのDXは、ゼンショーだけにとどまらない。

PROJECT 03

日本発祥のグローバル企業として、
伝統文化を継承していく。

伝統文化の三道とされる茶道・華道・書道に触れ、それらが継承と発展を遂げている理由を探りながら、自分磨きのきっかけをつかんでもらうのが研修の目的である。
茶道も、華道も、書道も、仕事には直接関係しないが、自己を表現するという意味では相通じるものがある。仕事も自己表現のひとつなのだ。
その道を極めた師範から伝統文化を体系的に学び、自ら実践する場とした。

PROJECT MEMBER

K.K.

日本文化研修センター事務局 事務局長 2005年入社

PROJECT MEMBER

K.K.

日本文化研修センター事務局 事務局長 2005年入社

すき家営業部からキャリアをスタート。ディストリクトマネジャーとして年商80億円の売上管理を行い、その後、人事部人財開発課のマネジャーや労働組合委員長、グループ会社の代表取締役などを務める。2023年6月より現職。

STORY 01

日本文化をテーマにした体験型の研修プログラム

ゼンショーは国内外食企業として売上No.1、世界の外食企業ではトップ10以内という地位を確立している。内需型産業とされる外食業界において、昨今は成長を海外に求める動きが加速。海外の店舗数は、日本発の外食企業で初となる10,000店規模に達する。ところで、企業の成長には、量的成長と質的成長の2つの側面があると言われている。前者は売上や利益、社員数などの拡大、後者は仕事の質や経営レベルの向上を表すのだが、ゼンショーでは質的な成長が積年の課題となっていた。

新たなフェーズに進むためには、顧客やサプライヤーといった外部のステークホルダーから、今まで以上の好意・共感・支持を得る必要があり、それらを得られるかどうかは、社員一人ひとりの人間力にかかっている。人間力とは人格あるいは器量のことで、能力やスキルとは対になる概念だ。一般的な研修でそれを身につけることはなかなかできない。日本発祥のグローバル企業として、社員にどのような教育を行うべきか。熟考に熟考を重ねた結果、日本文化の成り立ちを学び、価値を伝えることのできる人財を育てるために、日本文化をテーマにした体験型の研修プログラムが組まれることになった。

2021年7月に組織された日本文化研修センターが、日本文化研修の企画・運営を担う。まずは、気軽に自国文化に触れることのできる施設が東京都品川区のオフィス内に設営された。書院造りの茶室を有する「禅想庵(ぜんそうあん)」では、茶の歴史を知る座学コース、実際に茶を点てる実践コースなどを通じて、おもてなしや禅の精神を学ぶことができる。また、ステークホルダーを招いての茶会が開催されることもあった。

そして翌年2月には、京都市北区にある「松濤居(しょうとうきょ)」を取得。研修のメイン会場とする。1987年築の松濤居は、もともとはゲストハウスや展示場として使われていた。ゼンショーはそこを、社員の文化教育のために使いたいと申し入れた。その熱意にほだされ、前所有者は同社への譲渡を決めたのだった。

キャッシュレス時代の最適解を、内製化で導き出せ キャッシュレス時代の最適解を、内製化で導き出せ

STORY 02

全国から社員を召集し京都で研修を行う意義とは?

キャッシュレス時代の最適解を、内製化で導き出せ

賀茂別雷神社(上賀茂神社)や賀茂御祖神社(下鴨神社)、教王護国寺(東寺)など、京都市とその周辺都市では、計17の建物が世界文化遺産に登録されている。そんな日本文化が根付く京都だからこそ、わざわざ全国から社員を召集し研修を行う意義があると言えた。

K.K.が日本文化研修センターの事務局長に就任したのは、2023年6月のことである。自身も前年に研修生の立場で松濤居を訪れていたが、まさか研修を取り仕切る側になるとは、当時は想像すらしていなかった。ある程度フォーマットはあるものの、研修コンテンツはまだまだ改善の余地がある。K.K.は日本文化についての理解を深めるために、まずは京都の世界文化遺産を巡るところから始めた。3日連続で貸切タクシーを利用し、現地に詳しいドライバーにも教えを乞う。さらに、専門書で京都の歴史を平安時代から振り返った。

伝統文化の三道とされる茶道・華道・書道に触れ、それらが継承と発展を遂げている理由を探りながら、自分磨きのきっかけをつかんでもらうのが研修の目的である。いずれも仕事には直接関係しないが、自己を表現するという意味では相通じるものがある。仕事も自己表現のひとつなのだ。その道を極めた師範から伝統文化を体系的に学び、自ら実践する場とした。

システムをパッケージ化し、同業他社向けに販売する システムをパッケージ化し、同業他社向けに販売する

STORY 03

より高い次元で信頼関係が構築される

システムをパッケージ化し、同業他社向けに販売する

茶道の心得を示す標語に「和敬清寂(わけいせいじゃく)」がある。考えが違う人々が一緒に生きるためには、お互いに尊敬し合わなければならない。そうした心は清らかで静かな心境からしか生まれない。侘び茶を確立し「茶聖(ちゃせい)」とも称された千利休の、茶道の精神・境地を表した言葉である。もちろん、点前(茶道で抹茶を点てる作法)を覚えることは重要だ。しかし、もっと重要なのは、茶道の心得を自分の中にしっかりと取り込むことだった。

また、華道では自由花が用いられた。定まった型はなく、草木の形状や質感に目を向け、文字通り自由に生ける様式だ。8名の受講者がいれば、8通りの花の生け方がある。慎重に一本ずつ、場所やバランスを考えて生けるタイプなのか。直感と勢いで剣山に花を挿し、最後に足りなくなって困るタイプなのか。同じ手順でも、性格の違いでまったく異なる作品ができあがる。それが興味深いところだった。

書道においては、一画目をどの位置から書き出すかが、 文字全体のバランスに大きな影響を与える。たとえば漢数字の「二」を書くとき、一画目は少し右肩上がりだ。それに対し二画目は少し右肩下がりである。書いているうちに字の並びがずれたり、大きさが変わったりする人も、一画目の書き出しに注意するだけで綺麗な字が書けるようになる。そんなふうに、一字一字に意識を集中させて筆を動かしながら精神統一を図る。

そのほか、京銘竹(きょうめいちく)で竹箸作りをしたり、訪れた寺院で座禅を組んだりと、バラエティに富んだ研修が実施されているが、今回K.K.が考案した研修プログラムの最大のポイントは、茶道に軸足を置いていることである。受講生は松濤居での実地研修の前に、東京の禅想庵で事前研修を受けることになっている。そして、実地研修後は禅想庵にステークホルダーを招き、自ら茶を点ててもてなす。インプットだけではなくアウトプットを行い、実際に自分なりに使えて初めて、知識が価値ある状態になったと言えるのである。

実際、社内での上司部下のコミュニケーション、あるいは社外でのステークホルダーとのコミュニケーションが円滑になり、より高い次元で信頼関係が構築されるようになっていると、K.K.は実感している。さらに、アメリカやカナダ、オーストラリアで寿司のテイクアウト店を運営するAdvanced Fresh Concepts Corp.をゼンショーが子会社化する際には、和敬清寂がブランドコンセプトに採用されるなど、各方面に影響が広がっている。

日本文化研修センターには無限の可能性がある。だからこそ、現在取り組んでいる業務や責任の範囲を超えて、プラスアルファの価値を提供していかなければならない。たとえば、京都の伝統文化との出会いを通し、会社・地域・消費者が三方良しとなるプロジェクトは企画できないだろうか。まだまだ道半ばだ。それでも師範を見習い、この道を極めていきたい、とK.K.は語る。